ナンガハール州の州都ジャララバードから北東のクズクナール郡の18の学校に2019年10月ランドセルが運ばれました。
クズクナール郡は、ナンガハール州にある22の郡のひとつです。
ナンガハール州の面積は7,727平方キロメートルで、日本の宮崎県とほぼ同じ広さです。人口は約35万6千人です。クズクナール郡の中央にはクナール川が流れており、川を挟んでセントラル・シヴァ地区とカシコトナ地区に分かれています。カシコトナ地区には12の村があります。村人は伝統的な農業で生計を立てています。
この地区の住民はジャララバードに通じる道路がなく、社会経済的にも貧しく孤立をした生活を送っています。カシコトナ地区を支援する開発分野のNGO団体は無いため、アフガン医療連合は、これらの村落に8年間支援を行って来ました。
カシコトナ地区からクナール川を渡ってセントラル・シヴァ地区に移動するには、現地のパシュトー語で「ジャーラ」と呼ばれる伝統的なゴムボートがあるだけで、カシコトナ地区はアフガニスタン国内でも最も開発が遅れた地域のひとつでした。トラックに乗せたランドセルを僻地の村落の子どもたちに届けたことは、記念すべき出来事であり、村人を心温かく励ますことができました。
アフガニスタンの面積は652,225平方キロメートルで、日本の面積の約1.7倍です。
日本のように国土を結ぶ鉄道がありません。そのため、都市や地方を結ぶ道路が地域の発展に非常に大切な役割を果たします。
最近、幹線道路が開通し、村々の孤立はようやく解放されました。
ナンガハール州の州都ジャララバードとクズクナール郡カシコトナ地区を結ぶ幹線道路は村人の長年の悲願でした。
クナール川の水は周辺の農村の土地に水を供給して農作物を育てます。流域には整備された灌漑施設がほとんどないため、多くの土地が農地として有効に活用されていません。クナール川は全長480キロメートルで、日本で一番長い信濃川(367キロメートル)より長い河川です。ヒンドゥークシ山脈の氷河と雪解け水を源流として、パキスタンを北から南に流れるインダス川(3180キロメートル)に繋がり、カラチを経てアラビア海に注ぎます。2000年にはアフガニスタンで大干ばつが発生し、クナール川の水が干上がりました。その結果、多くの農民は農作物を育てることできず、生活に困窮して農地を放棄して、国内避難民となってしまいました。
カシコト地区は、1979年から2001年までの22年間におよぶ内戦で、隣国のパキスタンなどに避難をした帰還難民やアフガニスタン国内の避難民が、この地域で生活をしています。国連難民高等弁務官アフガニスタン事務所は、同じ地域の住民として仲良く暮らし、地域社会がバラバラにならないように、お互いに協力をして生活の向上が出来るように支援活動を行っています。
アフガン内戦が終わった翌年の2002年から今までに、520万人の避難民が帰還しました。避難民の帰還は今でも続いています。2017年は58,000人以上の避難民がアフガニスタンに戻りました。避難民の数の98%はパキスタンからです。2018年は15,000人以上の避難民がアフガニスタンに戻りました。その避難民の数の87%はパキスタンからです。12%はイランからで、1%はその他の国です。パキスタンからアフガンに戻る避難民の多くは、ナンガハール州のジャララバードや周辺の地域で生活をしています。避難民は戻ることができても、土地や財産を失い、苦しい生活を送っています。
日本から心のこもったランドセルが学校に到着しました。先生から、生徒一人ひとりに丁寧に渡されます。初めて見るランドセルは使い方が分からないので、先生からランドセルの使い方を教えてもらいます。
貧しい家庭の親は、子どもが小学校に入学しても、ノートや鉛筆を買ってあげることができません。ランドセルに入れられたノートが真っ白で丈夫な紙質に驚いています。アフガニスタンで売られているノートは、雨に少しでも濡れると、紙はぼろぼろになってしまい、字を書くことが出来なくなります。このノートなら長く使えると喜んでいます。
ランドセルは学年の全員に公平に配ります。子どもたちはランドセルを贈ってもらった嬉しさを同級生と話します。そして、家に帰り、自分の親にもランドセルを見せます。親は、自分の子どもがランドセルを手にして喜んでいる姿を見て、貧しい生活の中でも明るい希望を見出します。家庭では、兄や姉が使ったランドセルを、弟や妹が引き続き使うことがあります。その後でも親戚に回して、ランドセルを長く大事に使い続けます。
学校は高い塀で囲まれています。この塀は、外部の侵入者から学校の生徒たちを守るために大切なものです。外から学校が襲撃されることもあります。ユニセフが発表した2019年5月の報告では、学校が襲撃された理由のひとつとして、学校の施設がアフガニスタンでは2018年の国会議員の選挙人の登録場所になり、投票場所としても利用されたため、反政府勢力は学校を襲撃して選挙を妨害しました。2017年から2018年にかけて、学校襲撃の件数は68件から192件へと2.8倍に増えました。そのため、国内の1000校以上の学校が閉鎖され、約50万人の生徒が学校に行くことができませんでした。
アフガニスタン国民の平均寿命は、2019年は65歳です。1969年は36歳、1994年は53歳でした。そのため、子どもが大人になる前に親を亡くすことが多いです。18歳以下の4%は孤児です。両親またはどちらかの親の死亡によることが原因です。孤児の割合は、2歳児以下が1%ですが、15歳から18歳の青少年になると10%に増えます。子どもが10歳から14歳の間で、両親が生きている場合は67%が通学します。親のどちらかが生きていると、55%が通学しますが、就学率が12%も下がってしまいます。ランドセルと学用品は、子どもたちが学校に通う大きな励ましになります。
背景に見えるのが、クズカシクト女子学校です。ランドセルを積んだトラックの前で、一列に並んでランドセルの配付を待つ女子生徒たち。
クズカシクト女子学校は、国連難民高等弁務官(UNHCR)アフガニスタン事務所が2018年に建設をしました。この学校の生徒にランドセルが贈られました。学校の建物に「地域に根差したクズカシクト女子校の校舎と境界用の塀の建設プロジェクト2018年8月~12月実施」と書かれた表示板があります。この学校では女子生徒の基礎教育と技能訓練の促進をしています。このプロジェクトには日本も参加しています。支援国の国旗の中に日本の国旗も印されています。
ランドセルは男女平等に渡されます。人口の6歳以上では、女子の就学率は31%と低く、男子の就学率は57%です。教育の機会の拡大と向上は国の大きな課題です。
アフガニスタンでは長年、教育の機会が少なかったため、女性の85%と男性の51%は、読み書きができません。
小学校から女子生徒と男子生徒は分かれて授業を受けます。生まれて初めて背負うランドセルに、笑みがこぼれます。この小さな笑顔が、課題の多い地域社会や家庭を明るくする力になります。
小学校に入学をしても、学年が進むにつれて、学校に行かない生徒が増えます。
その理由の1位は、働いてお金を稼ぐためです。その男女の比率では、男子は38.9%で 女子は26.8%です。2位は、両親が単純に子どもを学校に行かせないです。女子は48.1%で男子は18.7%です。3位は、自宅から学校までの距離が遠いからです。男子は17.0%、女子は7.7%です。その他の理由には、自宅から学校までの途中の道のりが安全でないため、自宅の家事を手伝うため、結婚をするため、学校にトイレがないことや施設が粗末であるためです。村の子どもたちがランドセルを背負って学校に通うことが当たり前であるという地域社会の雰囲気を作ることが、子どもたちを学校に通わせる原動力になります。
この地域の主な収入源は農業です。貧しい農村では、ロバは重宝です。ロバは体格が小柄でエサが少なくて済みます。馬より小食のため、牧草などが少ない場所でも飼うことができます。そして、重い荷物をしっかりと運びます。
ランドセルを背負って元気よく学校に通う風景は、村の新しい光景です。村人の意識を徐々に変える力になります。小学校でも学年が進むと、貧しい家庭の生徒は中途退学する割合が増えます。
中途退学をする理由は、以下の通りです。
1位は、働いてお金を稼がないといけないためです。男女の比率では、男子が43.9%で。女子が3.1%です。2位は、親が学校に行かせないためです。女子は29.7で、男子は2.4%です。3位は、結婚をするためです。女子は19.2%で、男子は2.9%です。4位は、家の家事を手伝うためです。男子は15.5%で、女子は5.5%です。5位は、自宅から学校までの途中が安全でないためです。男子は7.7%で、女子は7.2%です。6位は、自宅から学校までの距離が遠いためです。女子は4.7%で、男子は2.1%です。7位は、学校の施設が粗末であるためです。女子は1.8%で、男子は1.3%です。
ランドセルが、中途退学を少しでも食い止める力になって欲しいです。
学校から自宅まで生徒は歩いて通います。公共交通機関はありません。スクールバスもありません。片道5キロから10キロ以上を歩くことは普通です。学校と自宅を往復する長い距離と時間で、学校に通わなくなり、中途退学をする生徒が多くなります。
アフガニスタンでは、学校でも、日常の社会生活でも男女の格差は大きいです。
男子生徒と女子生徒がランドセルを背負って毎日一緒に通学することは、学校の先生や生徒や村人の意識を変える力になります。男女の格差は、ジェンダーの格差となります。家庭内では、配偶者による妻への暴力に繋がります。15歳から49歳の既婚女性の56%が精神的・肉体的な暴力を受けたという調査報告があります。
生徒の人数に対して学校の施設が非常に不足しています。茅葺の簡易青空校舎で生徒は学んでいます。この粗末な教室が、生徒が無断で学校に通わなくなり、その結果、中途退学をしてしまいます。生徒に贈られるランドセルは、校舎の建物が粗末で学用備品がなくても、元気に学校に通い続けるように励ます力になります。
地面にわらで作った敷物を敷いた青空教室で学ぶ生徒たち。生徒の履物がきちんと整頓されて並んでいます。学校の教科は、国語(パシュトー語)、算数、理科、コーラン、美術などがあります。教師の人数や教室が足りないと、授業は午前で終わりになります。
女性の5%と男性の17%は、中学校以上に進学をして学んでいます。中学校を卒業した女性の就業率は、学校に行かなかった女性に比べて、41%対11%と高いです。ランドセルには、小学校6年間を無事に卒業して、中学校にも進学をして欲しいという思いが込められています。
アフガニスタンの全国家屋のサンプル調査で、手洗い用の石鹸と水があった家屋は36%です。手洗いの水だけがあった家屋は28%です。感染症を防ぐために保健所やクリニックは、手洗いの健康教育パンフレットを配付して手洗いの大切さを啓発しています。しかし、アフガニスタンでは85%の女性と51%の男性は読み書きができないため、パンフレットに書かれている内容が分からない人が多くいます。一人でも多く人が読み書きできることは、地域の人々の健康を守ります。
ジャララバードにあるアフガン医療連合のクリニックには、診察を受けるために大勢の外来患者が訪れます。そのため、診察の待ち時間を利用して外来患者に健康教育をします。女性の85%は読み書きができないためクリニックの医師から健康教育の内容を口頭で説明します。
クリニックでは、妊産婦と乳幼児の栄養不良を減らすため栄養改善教室を開催しています。アフガニスタンでは、5歳児以下の42%が政府に出生を登録されます。これは5人に2人の割合です。つまり5人の内3人は、政府に出生の登録がされていません。出生登録が進まない要因のひとつに読み書きが出来ない住民が多いことが挙げられます。女性が出産をしても、自分の子どもが生まれた年月日の記録がなく、分からないことがあります。
女性は、異性である男性医師の診察を嫌います。女性の医師がいないために、乳幼児を連れて病院やクリニックに来ない女性が多くいます。その結果、女性の患者や乳幼児が手遅れで命を落とすことが多くあります。読み書きを習得する女性が増えることは、アフガニスタンの多くの女性と乳幼児の命を救うことに繋がっています。ランドセルは、多くの女性に教育を受ける動機と機会を増やすことにもなっています。
アフガニスタンでは15歳から19歳の女性の12%は妊娠、出産、子育てを始めます。都市部で生活する女性が産む子供の数は4.8人です。農村部では5.4人です。教育を受ける機会の少ない女性が望む子供の数の全国平均は5.8人で、教育を受けている女性が望む子供の数の平均は4.8人です。教育を受ける機会の少ない女性は、中学校以上の教育を受けている女性より、産む子供の数は2人多いです。
アフガニスタンの人口は2019年推計で3720万人です。人口増加率(2010年~2019年)は2.8%です。世界の人口増加率(2010年~2019年)は1.1%です。アフガニスタンの人口増加率は、世界平均の2倍以上のスピードで増加しています。この急激な人口増加がアフガニスタンの社会経済的発展の大きな足かせとなり、貧困の解消を難しくしています。
写真提供: アフガン医療連合
参考資料:
1.UMCA/RPA Report on Randoseru Distribution in Kuz Kunar District, Nangarhar Province
アフガン医療連合 ナンガハール州クズクナール郡におけるランドセル配付報告書 英語版
2. Afghanistan Demographic and Health Survey 2015
Implemented by Afghanistan Central Statistics Organization and Ministry of Public Health
Funded by United States Agency for International Development (USAID)
Technical assistance by ICF, Maryland USA
アフガニスタン人口統計および保健調査2015 (発行 2017年1月) 英語版
実施団体: アフガニスタン政府中央統計局およびアフガニスタン政府公衆衛生省
資金提供: アメリカ合衆国国際開発庁
技術協力: ICF 米国メリーランド州
3.UNFPA State of World Population 2019
国連人口基金 世界人口白書2019英語版
4.UNHCR Afghanistan Operational Fact Sheet, 31 May 2019
国連難民高等弁務官アフガニスタン事務所 オペレーション・ファクトシート 発行 2019年5月31日 英語版
5.UNICEF Report : Afghanistan sees three-fold increase in attacks on schools in one year 27 May 2019
ユニセフ・アフガニスタン報告: 1年間で学校への襲撃が3倍になる。2019年5月27日付英語版
6.Wikipedia : Jalalabad
ウィキペディア: ジャララバード 英語版
7.Wikipedia : Kuz Kunar District
ウィキペディア: クズクナール郡 英語版
8.Wikipedia : Nangarhar Province
ウィキペディア: ナンガハール州 英語版
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